雷対策は万全ですか?

2024.01.23

雷被害はなぜ発生するのか

雷被害がおきるわけ

落雷による被害は、「直撃雷」と「誘導雷」、「逆流雷」に大別されます。


1.「直撃雷」は地上の施設などの対象物に直接落雷するもので、電気機器であればほぼ間違いなく破損します。人体に落雷した場合の死亡率は70%超といわれています。人命を奪う、機械設備を破壊する、火災を発生させるなどの被害を引き起こします。


2.「誘導雷」は雷が落ちた時に周辺にある電線や電話線、アンテナなどに発生する大きな電圧・電流のことです。誘導雷は電線などを伝って建物内に入り込んで電気製品を故障させます。数km先に雷が落ちただけで電気製品を壊してしまいます。直撃雷に比べて発生回数の多さが特徴です。雷雲が遠ざかるか消滅するまで何度でも屋外や屋内の設備に侵入します。雷被害の多くは、この誘導雷が原因で発生します。


3.「逆流雷」は、落雷時にほかの建物の避雷針などから大地に流れ出た電流が、接地を通じて逆流してくる大きな電圧・電流のことです。※接地=英語でearth(アース)。大地と電気器具や屋内配線を保護するための金属管などが電気的に接続された状態。
また、雷の影響で発生する過電圧や過電流を「雷サージ」といいます。聞き慣れない言葉ですが、サージは衝撃波の意味。発生要因によって、直撃雷サージ、誘導雷サージ、逆流雷サージなどに分けられます。

多発傾向にある雷被害


雷被害の報告事例は年々数を増やし、その対策が求められています。
多発原因の一つとしては、落雷の被害に遭いやすい電子機器類(FAXや電話機、インターネット)などの増加に伴って雷の侵入経路がふえたこと、機器類の高性能化・省電力化が進んだことによって生じた高電圧への耐性の低下などが原因としてあげられます。電源・通信などのネットワークの複雑化も指摘されています。その状況は一般家庭を例にしてみても、容易に想像できると思います。

また、近年、大きな被害をもたらしている突発的な大雨の影響も考えられます。「ゲリラ豪雨(雷雨)」という言葉がメディアで注目されたのは2008年。この年は、関東をはじめとする都市部での落雷が多い年でした。ゲリラ豪雨という言葉には明確な定義はありませんが、積乱雲の発生により局部的に起こる、予測が難しい突発的な豪雨を意味しています。気象学的には明確な定義付けのない言葉ですが、ある意味、新しい気象の傾向を表現するために必要な言葉なのかもしれません。

企業としての備え

企業においても設備・機器類などは、ハイテク化・デジタル化が進んでいます。反面、雷被害に対しては脆弱化が指摘され、問題となっています。
危険性を減らすために対策をとる企業がふえる一方、多くの企業が具体的な対策をとれずにいるのが現状です。将来的にも、機器、設備などの高度化、複雑化が進むことが予測できる現代では、十分な対策をとることが望まれます。
次に紹介するのは「落雷事故による保険金の支払い額(法人向け)」(1987年〜1999年)の内訳です。全体の約87%(1227件)は500万円未満ですが、残りのうちの約6%には1000万円以上を支払っています。保険金の支払額は、雷被害で故障した設備の修繕費や交換費用のほかに、営業停止に関わる休業補償費も含まれています。
雷の年間被害額は推定1000億円から推定2000億円といわれています。この金額には工場の機器の故障だけでなく、落雷の影響で作業が停止したなどの2次被害を含まれています。雷被害リスクへの対策の重要性をおわかりいただけると思います。

雷被害にどう備えますか?

雷サージへの備え

雷の影響で発生する過電圧や過電流である雷サージは、様々な電気・電子機器に雷被害を発生させます。特に、年々小型化、省エネ化が進んだ機器は便利で合理的ではありますが、雷サージに対する耐力が弱くなっています。損傷状況では、目に見える大きな損傷よりも、電子基板上の小さな損傷が多いのも特徴です。これは、電子機器の耐力が弱いことが原因です。
機器のネットワーク化も、雷サージの侵入経路をふやすことにつながり、雷被害を受ける可能性が高まってしまいます。
雷被害に備えるには、雷サージの侵入経路を把握することが大切です。落雷する場所によって侵入経路は大きく変わりますが、特に建物(避雷針など)への直撃雷や近傍雷があると、落雷箇所の周囲に発生する電磁界影響で、雷サージは様々な回線から侵入する可能性があります。

雷被害対策例

雷被害対策とは、直撃雷(落雷)から人命や建物・設備を守るための「雷保護システム」と、落雷時の電位差や引き込み線経由で建物内部に侵入する雷サージから電子機器などを保護する機器の「雷サージ保護システム」を統合して、被保護物全体を雷被害から保護する対策の総称です。

1.事務所ビル

事務所ビルには、直撃雷から施設を保護する「雷保護システム」と、建物内に配置されているコンピュータシステム及び通信装置などを落雷時の雷サージから保護する機器の「雷サージ保護システム」を設置します。

2.工場

工場には電力設備、または製造設備の操作や管理を制御するコンピュータシステムなどがあります。それらは製品の生産工程ごとに区分され、連帯して稼働しています。工場は広大な敷地に位置することが多く、落雷の危険性も高くなります。直撃雷から人や施設・設備を保護する「雷保護システム」を設置し、落雷時に発生する誘導雷サージから電子機器などを保護するために、工場の引き込み線または工場間の配線に適切な「雷サージ保護システム」を設置します。その場合の雷被害対策は下図の通りです。

3.ゴルフ場

ゴルフ場にはクラブハウスやスタートハウス、茶店などの施設が配置され、電力・通信・信号などの機器が設置されています。広い平坦地や緩やかな丘陵地などに立地しているため、落雷のリスクの高い条件が揃っています。
直撃雷の危険性から施設やプレイヤーを守るために、施設ごとに「雷保護システム」を設置。敷地内に埋設された配線などの近傍に落雷した場合の電位差や雷サージの影響で、設備等が破損しないように「雷サージ保護システム」による対策を行います。その場合の雷被害対策は下図の通りです。

4.学校施設など

広い敷地に建物が分散配置されている学校や大規模工場などの雷被害対策の注意点は以下の通りです。
1) 敷地に多くの建物が点在。
2) 避雷針などの雷被害対策の有無にばらつきがある。
3) 建物内には各種の電気・電子機器が設置。
4) 点在する建物は電線ケーブルなどで電気的につながっている。
敷地内の建物では「雷保護システム」に加えて「雷サージ保護システム」を施工すると建物内の安全は確保できます。
しかし、敷地内にはグランドなどがあり、雷保護対策のいきとどかない場所ができてしまいます。過去の雷被害などの危険性がある場合は、襲雷警報をだして速やかに建物内への移動を促すことが大切です。
建物内の電気・電子機器は多くの回線で結ばれているので、どこかの建物に落雷すると、ほかの建物の電気・電子機器に伝搬する危険性もあります。

5.一般住宅

一般住宅でも情報端末機が社会生活の必需品となりつつあります。この場合の雷被害で注意すべきは、電子機器類は過電圧耐性が低く、誘導雷サージでの被害を受ける危険性が高いという点です。適切な「雷サージ保護システム」の設置などの対策が必要です。その場合の雷被害対策は下図の通りです。

太陽光発電の雷被害

太陽光発電施設は雷被害のリスクが高い

太陽光発電施設は、多くの機器が屋外にありケーブルで繋がっていて、高い雷被害リスクにさらされています。さらに、落雷による機器破壊が原因で発電停止や、電力供給停止などの二次被害が引き起こされる危険性が高く、「雷保護システム」と「雷サージ保護システム」などの対策が必要です。雷被害一例は下図の通りです。

総括

以上のように、施設の特性や構造にあわせて雷被害対策は変化します。そして、企業や組織の雷被害対策で大切なのは、人命や施設、設備を守ることはもちろん、雷の影響で作業が中止したことで発生する営業停止期間などの2次被害を防ぐことも含まれています。